WARAKUSHA

2021.08.17

個人病院のユニバーサルデザイン【第1回:「すぐわかる」デザイン】

0.個人病院にユニバーサルデザインが必要な理由

「ユニバーサルデザイン」とは
身体能力や年齢、国籍、性別に関わらず、すべての人が使いやすいデザインのこと。
身体障がい者に対応した「バリアフリー」より広義であり、現在は様々な建築や商品に「ユニバーサルデザイン」が採用されています。

医療福祉施設にもユニバーサルデザインが普及しつつありますが、それは大病院だけのものではありません。

個人病院には、老若男女、あらゆる属性や心身の地域住民が訪れます。
どんな人も直感的に使えるユニバーサルデザインは、個人病院にこそ取り入れていただきたいデザインです。
予算面においても、音声や画面等の設備と組み合わせればより効果的ですが、基本的にはそれぞれの予算内で十分に取り組める内容となっています。

ユニバーサルデザインが採用されたクリニックは「親切な病院」という印象を持たれ、院長先生への信頼度もさらに高まるのではないでしょうか。
実際に私も設計者として、これまで多くの患者さんがこのようなプロセスを辿ってリピーターとなる様子を、院長先生よりお聞きしてきました。
もちろん院長先生の技術やお人柄あってのことですが、それらを表現したものの一部がユニバーサルデザイン等の建築設計であると思っています。

「すべての人が使いやすい」ユニバーサルデザインには、「自然と使いたくなるデザイン」という概念が通底しています。
リピーターや口コミ評価を大切にする地域のクリニックにおいて、ハード面の親切設計も欠かせない要素です。

本コラムより3回シリーズにて、
クリニック等開業医の先生に知っておいていただきたい「個人病院のユニバーサルデザイン」についてお話し致します。

第1回:「すぐわかる」デザイン (←本コラム)
第2回:「安全」なデザイン
第3回:「安心」なデザイン

それでは
第1回:「すぐわかる」デザイン
についてのご紹介です。

【目次 第1回:「すぐわかる」デザイン】
1.「すぐわかる」動線
2.「すぐわかる」表示
3.「安全・安心」の第一歩

1.「すぐわかる」動線

医院の場所を見つけるところから、ユニバーサルデザインは始まっています。
どんな方もストレスなく敷地内に入り、受付までアプローチできる動線計画を整えましょう。
具体的に気を付けるべきことを挙げていきます。

【①人も車も簡単にアプローチできる計画とする】

歩行者と車の敷地内通路を分け、どちらも安全に敷地に入れる配置計画とします。
歩行者通路はタイル、車路はアスファルト舗装といったように、地面の仕上を分けると歩車の分離が明確になります。
また、車両同士の混乱を避けるため車路については入場・出場の各ルートを白線などで表示すると良いでしょう。

加えて、外部には植栽を計画するケースも多いと思います。敷地出入口への高さのある植栽は避け、見通しの妨げとならないよう配慮しましょう。
「駐車場出入口」や「診察時間案内」の看板位置にも要注意です。

【②車椅子使用者用駐車場を建物近くに設ける】

例えば浜松市の公共施設には、「全駐車台数の2%かつ1台以上」の車椅子使用者用駐車場を、玄関の最も近くに設けることが求められます。
民間のクリニック等でも、できる限り建物付近に1台分確保すると良いでしょう。

【③車寄せや駐輪場から、雨に濡れずに建物に入れる】

車寄せや駐輪場は、庇をつけたり半屋内空間に取り込んだりすることで、雨の日の来院に対応した設計とします。
最近ではこれらのスペースを感染症対応の屋外診察に併用するケースもあるため、屋外で屋根の架かる部分を広めに設けるようにしても良いでしょう。

UD1.jpg歩行者用通路と車路2車線を分けている。
車椅子使用者用駐車場は写真奥の建物前に1台。
車寄せは入口正面の二本柱の前。
駐輪場は半ビルトインとし、
駐輪後は濡れずに建物に入ることができる。
植栽は建物前に寄せて見通しを確保。

【④すぐに受付が見つかる】

スムーズな受付はクリニックの第一印象アップに直結します。
誰でも建物を入った瞬間に視認でき、スタッフからの声かけが届きやすい位置に受付を設けることが鉄則です。

UD2-2.jpg風除室・玄関。
開院時間は、進行方向に
受付カウンターとスタッフの顔が見える。

2.「すぐわかる」表示

屋外の看板や外壁の立体文字、室内の案内表示...。
これらの表示に気付いてもらえなければ、せっかく整えた動線もうまく運用できません。
案内表示ではデザインの良さも大切ですが、「遠くからでも視認しやすい」「誰でも見える・読める」ことを前提とする必要があります。
ユニバーサルデザインの表示について、具体的にご紹介します。

【①文字】

文字は大きめ・太めを標準とします。
ユニバーサルデザインでは遠くから見る文字の書体は「ゴシック体・太字」が基準として定められ、太めの文字でも読みやすいよう、文字間隔も広めに開けることが推奨されています。

私達も看板文字等のサインを設計・デザインする際には、視認距離をもとに文字サイズを決定しています。例えば10m離れた距離から見る和文の文字なら4cm角、距離20mなら文字8cm角を基準に、利用状況に応じて検討を進めます。

【②色づかい】

表示板の地色と文字・図の色は明確に分けて、誰でも識別できる配色とします。
色覚障害のある方や高齢の方は、同系色を見分けることができません。ユニバーサルデザインの指針でも、表示板と文字等との明度差は「5以上」が基準となっています。
こちらの写真が、明度差「6」の例です。

UD2.JPG受付・会計の表示。
地色のチョコレートブラウンと
文字色のオフホワイトは
明度差「6」の組み合わせ。
書体は丸ゴシック太字、文字間隔は広め。

【③取付位置】

案内表示の取付位置として、身長や姿勢、車椅子使用などに関わらず、誰もが見やすい位置の基準が定められています。

診察室の出入口等に壁から突き出して付ける「室名サイン」は取付高さ2mを基準とします。
表示が目立つよう、視界にあまり他の情報が入らないようにすることも大切です。サイン周りは柄物の壁紙等は避け、家具・備品や掲示物も極力減らすよう配慮すると良いでしょう。

UD3.JPG診察室番号サイン
床から数字下で高さ2m、
文字が浮き出て見えるよう
他の色や物の要素を少なくしている。


ちなみに近くから見る壁付案内表示板は、下の写真のように床から中心までの高さを1.35mとすると、車いすの方にも見やすい仕様となります。

UD4.JPG車椅子使用者が利用する施設。
トイレを表すピクトグラムや「相談室」のサインは、
床から表示部中心までの高さ1.35m。


表示内容については、シンプルかつ瞬時に伝わる内容が親切です。ピクトグラムも活用すると良いでしょう。
ピクトグラムはトイレの他、授乳室や浴室、静養室等の表記に便利です。
使用の際は配色にも留意し、国内のJIS規格や世界共通のISO規格を参照することをおすすめします。

3.「安全・安心」の第一歩

「すぐわかる」デザインは、患者さんの心身に起こりうるリスクを予測し、来院の初回から満足度を上げるためのデザインとも言えます。
数あるユニバーサルデザインのポイントの中でも、まずは本コラムでご紹介した「すぐわかる」要素を満たすことが、この後のコラムにて公開予定の「安全」や「安心」といったユニバーサルデザインの他要素に繋がっていくのです。

4.まとめ

「個人病院のユニバーサルデザイン」のうち、「すぐわかる」デザインという切り口でご紹介しました。

文中の寸法等は、当事務所の所在する「浜松市公共建築物 ユニバーサルデザイン指針」に基づいています。私達が委託いただく浜松市の公共施設の設計時の標準であり、民間クリニックや歯科医院の設計にも応用しています。ぜひご参考になさってください。

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資料IMG_3485-1.jpg

今回ご紹介の事例

なごみクリニック様
林齒科医院様

この記事は私が書きました

WARAKUSHA代表 一級建築士・管理建築士

山﨑 正浩

山﨑アイコン.JPG

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