個人病院のユニバーサルデザイン【第3回:「安心」なデザイン】
個人病院のホスピタリティを表現できる「ユニバーサルデザイン」について、本コラムでは3回シリーズでお届けしています。
今回は第3回、「安心」を切り口にしたデザインをご紹介します。
これまでのコラムはこちらです。
第1回:「すぐわかる」デザイン (←前々回コラム)第2回:「安全」なデザイン (←前回コラム)
第3回:「安心」なデザイン (←本コラム)
全体の流れとしては、
初診時から印象アップの「すぐわかる」デザイン
↓
ストレスなく通い続けられる「安全」なデザイン
↓
かかりつけ医として委ねられる「安心」なデザイン
という順序でお話ししています。
それでは
第3回:「安心」なデザイン
について、具体例を見ていきましょう。
【目次 第3回:「安心」なデザイン】
1.あらゆる動きを許容する設計
2.患者さんだけが使うスペースの配慮ポイント
3.院内と地域をやさしく照らす照明計画
- 1.あらゆる動きを許容する設計
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「ユニバーサルデザイン」の定義は
身体能力や年齢、国籍、性別に関わらず、すべての人が使いやすいデザイン、とあります。
どんな方も肩身の狭い思いをしたりせず、様々な動きを許容する空間づくりが大切になります。【①通行時の安心】
ベビーカーや車椅子がスムーズに通れるよう、そして子どもの不意な動きにも混乱が出ないよう、出入口はメインの扉で幅120cm、その他ドア等で90cm以上確保します。
廊下の幅においても車椅子の通行しやすい120cmを基準に考え、曲がり角等は直径150cm以上の転回スペースを設けるようにしましょう。車椅子使用者の利用が多い医院であれば、廊下の幅木(壁の最下部、床との取り合い)を高めに設けると、利用者も壁にフットレスト跡がつく心配をせずに通行できます。
通路を広く確保した廊下。
壁の腰下部、ベージュ色の幅木を高めに取り、
車椅子の通行に配慮した。その他、壁や柱の角を面取りしたり、壁の表面を滑らかな仕上としたりすると、衝突ケガの予防になります。
想定している患者さんに応じたデザインを、設計者と協議することをおすすめします。【②受付・会計時の安心】
受付カウンターでの応対は、患者さんの安心感を大きく左右する要素の一つです。
ユニバーサルデザイン指針でも、患者さんとスタッフの目線の高さが合うよう、カウンターまわりを設計することが求められています。
加えて、受付前に荷物置きの台を設けて杖を掛けられる「くぼみ」を開けることでスムーズな手続きをサポートでき、より配慮の行き届いた仕様となります。受付前の荷物置きと杖用の「くぼみ」。
カウンターは床と壁に固定された造作家具であり、
寄りかかって身体の支えにもできる。なお、クリニックの受付は立位カウンターが大半だと思いますが、車椅子の患者さんに対応した座位カウンターも併設できるとベストです。
- 2.患者さんだけが使うスペースの配慮ポイント
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【①トイレ・洗面まわり】
トイレ・洗面は、初めての来院でもひとりで使用を完結できるのがユニバーサルデザインの基本です。
待合室から見てわかりやすい位置にお手洗い表示を配置し、出入口まわりは中が見えにくいよう計画しましょう。
また、車椅子の方や乳幼児連れの方に対応した多機能トイレを確保できるとベストです。こちらの写真は歯科医院様の「洗面室」。
おむつ替えや授乳ができるベビーベッドや椅子があり、トイレに面して設けています。
このような室配置は、ファミリー層を想定したクリニック様に好評です。
- 3.院内と地域をやさしく照らす設計
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【①手元を照らす】
書類やお金をやりとりする受付カウンターは特に、手元を照らし視力の弱い方にも見やすい仕様とします。
こちらの写真の医院様ではスポットライトでカウンター上面を照らし、壁には間接照明を設け目に直接光が入らず受付前を照らす計画としました。患者さんの手荷物などの身のまわりも明るくなるよう配慮しています。
【②「明るい雰囲気」を設計から】
ユニバーサルデザインのガイドラインでは、待合室の明るさを確保し高齢や弱視の方にも使いやすい配慮をするよう推奨されています。
明るく清潔感のある空間は視認性が高いだけでなく、利用者に「心理的な安全地帯」と感じさせる力があります。スタッフの方々の明るく親切な対応も引き立ててくれますので、計画初期の段階から積極的に検討することをおすすめします。高い位置に窓を設けると
より明るい太陽光を採り入れられる為、
小さめの窓でも多くの採光が得られる。
視線の位置に大きな開口を設けずに採光が可能なため
室内のプライバシーも保護できる。【③夜の地域を照らす】
外部通路は適切に照明を配置し、夜間でも十分な明るさが得られるよう配慮します。
これは建物を利用する患者さんの安全のためであることはもちろん、地域の治安向上にもつながります。特にWARAKUSHAのメインエリアである浜松市や磐田市では、郊外の住宅街など元々外灯が少ない地域が大多数です。
郊外地域では、クリニックの新築により外灯や窓から漏れる照明で地域の夜道を照らせるようになることも大切な役割となるのです。「地域を照らす行灯」をイメージした外観。
日没の早い冬季は夕方から「行灯」の役を担う。
- 4.まとめ
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「個人病院のユニバーサルデザイン」のうち、誰もが通い続けたくなる「安心」なデザインについてお話ししました。
文中の寸法等は当事務所の所在する「浜松市公共建築物 ユニバーサルデザイン指針」に基づいています。
私達が委託いただく浜松市の公共施設の設計時の標準であり、民間クリニックや歯科医院の設計にも応用しています。ぜひご参考になさってください。また、無料進呈の「医療・福祉施設設計事例集」では
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この記事は私が書きました
WARAKUSHA代表 一級建築士・管理建築士