WARAKUSHA

2021.08.19

個人病院のユニバーサルデザイン【第2回:「安全」なデザイン】

公共施設や大病院がイメージされがちなユニバーサルデザインですが、個人病院にこそ採用いただきたいものであることを、前回のコラムでお話しさせていただきました。

「ユニバーサルデザイン」とは:
身体能力や年齢、国籍、性別に関わらず、すべての人が使いやすいデザインのこと。

詳しくは、タイトルをクリックしてご一読ください。↓

第1回:「すぐわかる」デザイン (←前回コラム)
第2回:「安全」なデザイン   (←本コラム)
第3回:「安心」なデザイン       


クリニック等医院建築の設計では、「すぐわかる」デザインで初来院に対する心理的な垣根を取り払った上で、どんな方も支障なく通院できる「安全」なデザインを検討することが重要なポイントです。

それでは
第2回:「安全」なデザイン
について具体的にご紹介します。


【目次 第2回:「安全」なデザイン】
1.建物外部
2.受付・オープンスペース
3.中待合・診察室等

1.建物外部

車と歩行者の通路を分けることは、「わかりやすさ」の上でも欠かせない要素です。(詳細:前回コラム
分けた上で、それぞれの設計ポイントについて見ていきましょう。

【①車路・駐車場】

車路や駐車場については雨の日も水溜まりにならないよう水勾配を設け、透水性舗装とすることがユニバーサルデザインの基準となっています。

そして、車止めでつまずくのは非常に危険かつ頻発する駐車場での事故です。車止めの設置は歩行者の通らない位置とし、つまずき防止の反射板を付けるようにします。

2駐車場.JPG反射板のついた車止め。
車止め部分は歩行者が通らない配置としている。

【②歩行者通路】

歩行者通路の床面は、雨でも水はけが良く滑りにくい仕様とします。
屋外床用の防滑タイルやモルタル(滑り止めに刷毛引き仕上としたもの)、車両の荷重にも耐えうるインターロッキングブロック舗装などから、好みや予算に応じて素材を選ぶと良いでしょう。
タイルやブロックを選択する場合には、つまずきや車椅子・ベビーカーの衝撃を防ぐため、凹凸の少ないものを選ぶようにしましょう。

2インターロッキング.jpgインターロッキングブロックの舗装面。
車の通行に耐え、
種類も豊富で色合わせがしやすい。
なるべく表面が平坦なブロックの選択を。


また、玄関まわりの段差にはスロープと手すりを設け、車椅子やベビーカー、高齢者の来院をスムーズにします。
スロープの勾配は1/15以下という規定があり、建物入口と地面との高低差が50cmある場合には7.5m以上のスロープ長さが必要です。計画初期の段階で適切な検討を行うようにします。

2スロープ.JPG

車椅子やベビーカーの利用に便利なスロープですが、傾斜で車輪が加速しやすいというリスクもはらんでいます。メーカーで「スロープ用」と表記のあるタイルを選択するなど、特に入念な滑り止め対策が必須です。


全体として大切なのは、歩行者の通行範囲に転倒リスクとなる要素を作らないことです。
夜間の視界確保のため、適切な位置に外灯も設置しましょう。
建築計画での対応の他、落ち葉や落下物をこまめに清掃するなど運用面の整備も大切です。

【③建物出入口】

主要な出入口の幅は120cmの引戸を基本とし、扉の前後には車いすの転回用に直径150cm以上のスペースを設けるようにします。

また、出入口扉に多い大きなガラス面には衝突防止のため、腰下には手摺や枠を設置し、視線の位置には注意喚起シールを貼ります。

2玄関.JPG出入口の自動扉。引込側の腰下にはステンレスの枠、
車椅子の視線位置のシルバーの丸が注意喚起シール。

2.受付・オープンスペース

患者さんが全員通る受付から診察室までの空間。
床は転倒対策として、滑りにくく弾力のある素材が推奨されています。各部について見ていきましょう。

【①受付】

車椅子などの座位で使える低いカウンターが設置できると理想的です。
立位で受付するカウンターは、寄りかかれるよう壁や床への固定式とすると良いでしょう。

【②廊下等オープンスペース】

外部スロープまわりを含め、患者さんの通路には連続した手すりの設置を基本とします。
設置の基準高さは床から75~85cm、にぎりやすい丸みのある形状としましょう。
手すりの端部は服などが引っかからないよう、壁側に折り曲げます。

2手すり.JPG廊下の手すり。
曲がり角も連続し、全体に丸みのある仕様。
ドア前の端部は壁側に曲げて納めている。

3.中待合・診察室等

【①照明と採光】

ムラがなく、通行に必要な照度を確保します。
高齢者をはじめ、直接的な光をまぶしく感じる方もいらっしゃいます。電球色の照明を用いたり、間接照明とする等の配慮をおすすめします。

明かりに関するクリニック等医院設計でのポイントは、主な開院時間が日中であることから、まずは自然光による採光を最大限に活用することです。
暗くなりがちな廊下には、地窓を設けて自然光を足元に採り入れると良いでしょう。
また、こちらの写真のように高窓からの太陽光をルーバーで和らげ、均一な光を採り込む方法も有効です。

2採光.jpg

【②扉】

診察室出入口などの扉は引戸を基準とし、ハンドルは上下に長いバータイプのものとすると、車いすの方や背の低い子どもでも操作が容易です。
操作が軽く指はさみなどの事故対策が施された医療福祉施設用のドアも多く出ていますので、使用環境に合ったものを設計者に相談されると良いでしょう。

2引戸.jpg長めのバーハンドルがついた引戸。
診察時の会話が外に漏れないよう、
防音仕様となっている。

4.まとめ

「個人病院のユニバーサルデザイン」のうち、身体面という切り口から「安全」なデザインをご紹介しました。
次回は心理面での「安心」について、誰もが使いやすいデザインを事例と共にお話しさせていただきます。

文中の寸法等は当事務所の所在する「浜松市公共建築物 ユニバーサルデザイン指針」に基づいています。私達が委託いただく浜松市の公共施設の設計時の標準であり、民間クリニックや歯科医院の設計にも応用しています。ぜひご参考になさってください。

また、無料進呈の「医療・福祉施設設計事例集」では
実際の施設について詳しくお伝えしております。
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資料IMG_3485-1.jpg

今回ご紹介の事例

鈴木内科様
なごみクリニック様
林齒科医院様

この記事は私が書きました

WARAKUSHA代表 一級建築士・管理建築士

山﨑 正浩

山﨑アイコン.JPG

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