WARAKUSHA

2021.01.26

患者目線だけでは未完成。「3者満足」の動線計画とは

0. 患者目線の動線計画=選ばれるクリニックではない3つの理由

一般論として、顧客満足度が高ければ安定した経営に繋がります。
また最近では、従業員満足(ES)あってこそ良いサービスを生み顧客満足(CS)をもたらすという「ESなくしてCSなし」という言葉も耳にするようになりました。
しかしクリニック等建物の設計においては、どちらも十分ではありません。「顧客(患者)」「従業員(受付・医療スタッフ)」そして「経営者(院長)」それぞれの目線で見て、この「3者」皆が満足する動線計画が成立する建物が、結局患者さんに永く愛されているのです。

このように、患者目線=選ばれるクリニックでなく「3者満足」の動線計画が重要である理由は3つあります。

1. 誰かを犠牲にした動線は、結局皆が使いにくい
2. 全者にとっての「あたりまえ」を整えると、時間と機会が生まれる
3. シンプルで素直な動線が、結果的に患者目線のデザインになる

これら3つの理由について、これからお話ししていきます。

1. 誰かを犠牲にした動線は、結局皆が使いにくい

そもそも建築は、誰のためにあるのでしょうか?
お金を出す施主のため?建物を常時利用する人のため?来客や通行人のため?
...WARAKUSHAでは、正解は「3者全て」だという考えで建築を捉えています。
そして実際にプランを練る際にも、「患者」「スタッフ」「院長」の3者は三位一体の関係であることを常々実感しています。誰か1者でも犠牲になる動線計画は、まわりまわって他の2者も使いにくくなってしまうのです。

例えばクリニックの場合、患者さんにゆったり過ごしてもらおうと待合室を広くして、バックヤードは多少手狭で不便でも良い、という計画にしたとします。すると問診や処置、検査などの動線が混在して誘導が円滑にできず、待ち時間が長引いたり移動時に何度も人とすれ違ったりと、結局患者側にも支障が生じます。言い換えると、長期的に見た時に、スタッフ動線の充実も確実に患者さんのメリットになるのです。

さらに院長先生の動線整理は、高い医療パフォーマンスや医院のブランド力を維持する上で極めて重要であると経験上感じています。
診察関係の「表動線」と一線を引いて一人きりで集中・リラックスのできる空間が欲しいと願う院長先生は非常に多くいらっしゃいます。同時にスタッフだけで気兼ねなく休憩できる控室と院長室を分けることも多くのクリニックで好まれ、互いのパフォーマンス向上に貢献しています。
また、院長先生が私服で出勤し診察室まで移動したり、来客と打合せをしたりといった「裏動線」が患者や通行人の視界に入らないことは、医院のブランディング面から見ても優先していただきたい事項です。
患者満足度、従業員満足度に直接還元される要素であるからこそ、院長先生の動線計画も犠牲にできません。

スタッフ用の裏動線

2.  全者にとっての「あたりまえ」を整えると、時間と機会が生まれる

クリニックの建物に求める「あたりまえ」を「患者」「スタッフ」「院長」の3者それぞれの立場から偏りなく整えることは、時間ロスや患者獲得の機会損失を防ぐことにつながります。ここでは代表例として「診察の待ち時間」についてお話し致します。

厚生労働省の「平成29年受療行動調査」による外来患者の満足度調査では、治療や患者対応に関する項目について「満足している」人が全体の50%を超える一方で、診察までの待ち時間に「不満」「ふつう」と答える人が全体の70%近くにも及びました。
データから、待ち時間が理由で診察の機会損失が起きているクリニックが多いのではないかと想像できます。そして患者満足度の向上に最も有効なのは「待ち時間対策」であるとも読み取れます。
待ち時間は、動線計画によってかなりの対策を施すことが可能です。これは患者さんにとってのメリットはもちろん、クリニックのスタッフにとっては業務効率改善や疲労防止、院長にとっては診察回転率や集客力の向上と、3者にとってメリットの大きい対策です。

動線計画における3者の待ち時間対策を考えたとき、大きくは「実際の待ち時間を短縮する方法」と「時間を変えずに不満を和らげる方法」の2つに分けられます。
前者:「時間」にアプローチする場合は
・診察までの時間短縮:受付、待合、診察室の配置と繋がりを最適化する
・診察自体の時間短縮:問診コーナーを適切な場所に設ける
後者:「時間を変えず」アプローチする場合は
・入口、受付、待合を患者が一目で認識できる計画とする
・待合室から緑いっぱいの中庭が見渡せる
・残り待ち時間を想像しやすい・伝えやすい諸室配置とする
等です。

これらはいずれも、3者にとっての「あたりまえ」を高い水準で、クリニック全体に偏りなくセットしておく施策と言えるでしょう。
受付から診察、会計までのオペレーションは円滑で「あたりまえ」。
患者さんの待ち時間は快適で「あたりまえ」。
外来患者の実質的・心理的満足度を高めると当時に、医院運営を円滑化する基盤となります。
良い治療の象徴として、良い環境を整えることは非常に有効です。

待合室。待ち時間の快適性に配慮

3. シンプルで素直な動線が、結果的に患者目線のデザインになる

クリニックの標榜科目や運営体制によりますが、原則として動線計画はシンプルに作ることを推奨します。
患者さんは何らかの症状や不安を抱えて来院されることがほとんどです。加えて車で来られる患者さんの中には、運転の苦手な方もいるでしょう。
誰でもいかなる状況でも、目的地に容易に辿り着き、目的を滞りなく果たせること。シンプルですが、とても大切なことではないでしょうか。そして、そのためには患者さんを誘導・応対するスタッフや院長先生がスムーズに動けることも不可欠です。

このことはデザイン面にも大きく関係してきます。
外部から敷地へのアプローチ、室内空間に至るまで、人の動作や心理に沿った素直な動線計画を基に建築をデザインすると、無理や無駄のない美しさが生まれます。ちょうど茶道で「手なり」という言葉があり、器を扱う手の動きが自然に無理なく成されることを意味しますが、まさに「手なり」の所作の美しさを建物で表現するような形です。

シンプルで素直な動線計画は、見やすく、光や風が通りやすく、衛生的な建築デザインとして仕上がります。その空間で過ごしたことは、好ましい印象の体験として患者さんの記憶に刻まれやすくなるでしょう。

光と風が通り、シンプルなつくりの患者動線

4. まとめ

今回はクリニックの動線計画の概論として、「患者」「スタッフ」「院長」の「3者満足」の計画が、クリニックの長期的繁栄にとって重要であるというお話をさせていただきました。
次回以降のコラムでは、各者の動線計画の具体的な立て方についてご紹介させていただきます。
また、写真でご紹介した事例は無料進呈の「医療・福祉施設設計事例集」でも詳しくお伝えしております。ぜひ、資料請求からお申込みください。

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今回ご紹介の事例    

なごみクリニック様

鈴木内科様

この記事は私が書きました

WARAKUSHA代表 一級建築士・管理建築士

山﨑 正浩

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