WARAKUSHA

2021.04.09

クリニック新築の流れ【第2回:「実施設計」ドクターのための打合せポイント】

0. 設計打合せの流れ

クリニックの新築時、院長先生が知っておくべき
設計打合せの流れをご紹介しているコラムの第2回、
「実施設計」についてご紹介いたします。

打合せの流れ:

コラム用2.jpg

第1回「基本設計」コラムはこちら

「実施設計」の成果図面の枚数は、平均約100枚。
(床面積200㎡前後のクリニックの場合)
デザイン・機能・コストパフォーマンスを
最大限に発揮するためのポイントを盛り込んでいます。
ぜひ、これからご紹介するポイントをご参照ください。

【目次】
1. 「実施設計」のゴールは?
2. 「実施設計」で決めること
3.打合せ頻度と項目の例

1. 「実施設計」のゴールは?

 【ゴール(目的)は3つ】

「実施設計」とは字のごとく、
工事を「実施」するための図面一式を書き上げること。
細かな仕様や寸法、型番等もすべて図面に盛り込みます。
私たち設計者は、これら「実施設計」の図面が
以下3つの目的を果たせるよう業務にあたっています。

①お施主様(院長先生)とのコミュニケーションツール
②建設会社への意図伝達ツール
③行政への許認可用提出書類

 【①お施主様(院長先生)とのコミュニケーションツール】

「基本設計」にて決定したクリニックの計画の内容を
設計者が図や文字に具現化したものが「実施設計」の図面です。
この一式図面を打合せ資料として、
実際の建物内における人の動きや
仕上げの素材感、建具(ドア類)・収納の使い方等、
開院後の運用イメージを院長先生とすり合わせるのです。

イメージの共有が中心だった「基本設計」から、
とことんリアルに内容を詰めていく「実施設計」へ。
図面だけではわかりにくい部分については
模型や内観パース(完成予想図)、
イメージ画やカタログ・サンプル等を適宜組み合わせながら、
院長先生が具体的に内容を検討いただけるよう工夫しています。

また、打合せ時間があまり確保できない先生も
いらっしゃることと思います。
そんな先生にも負担なく進められるよう、
WARAKUSHAでは
十分な事前準備や仮説立てをした上で
議題をシンプルかつ網羅的に洗い出し、
打合せに臨んでいます。

ある程度設計者に任せ効率的に進めたい先生にも、
とことん建物にこだわりたい先生にも。
お一人お一人に合った方法で
高い医療パフォーマンスが発揮できる建築を
手に入れていただけるよう、
対面・オンラインを組み合わせて進めています。

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 【②建設会社への意図伝達ツール】

建設会社さんとの関係においては、
「実施設計」の図面は
工事内容の意図伝達ツールとなります。
工事費の見積もこの図面一式をもとに算出されますので、
まずは正確に積算できる図面であることが大前提です。
どんな設計意図のもと、どの材料・工法を
想定しているかを実施設計の図面に落とし込んでいきます。

以上が「想定外の増額を防ぐ」ことであるならば、
実施設計の図面は
「工事の不具合の発生を防ぐ」
内容であることも、同じくらい重要です。

「部材の取り合い」を例にお話しすると、
職人さんが作りやすい納まりを考えて図示することで
施工コストが抑えられ、
仕上がりも丈夫で美しいものとなります。
逆にこうした検討が不十分な場合、
屋根・天井まわりの部材なら雨漏りのリスクなど、
建物使用上の不具合に直結します。

このように
各部の細部にわたる丁寧な検討は、
デザインだけでなく
コストや工程、機能のためにも
極めて重要なプロセスなのです。

 【③行政への許認可用提出書類】

建築の確認申請をはじめ、
必要に応じ都市計画法上の開発や道路関係の申請など、
行政各所との協議や手続きには実施図面が必須となります。
各部署の許認可に必要な情報を正確に記載した図面を
実施設計で作図しています。

2. 「実施設計」で決めること

実際のクリニック設計の打合せは、
以下のような順番で進めています。

①建物のフォルムに関わること
②建物の内外装と基本性能
③窓・ドア類
④各種設備
⑤家具類
⑥サイン(案内表示)、外構、植栽他

いずれも、前段階の「基本設計」で決めた内容を
具体的な数値や材料、品番に落とし込むイメージです。
それでは、それぞれの具体的な打合せポイントについて
ご紹介します。

【①建物のフォルムに関わること】

各種法令の諸条件や調整事項をふまえて、
建物のフォルムに関わる
平面・高さの双方向の寸法を同時に決めていきます。
平面方向では内外空間の間取り、
高さ方向では諸室の天井高や床の段差などが協議事項です。

例えば外部空間の平面計画では、
車椅子対応で建物アプローチにスロープを設ける場合、
段差の高さとスロープの勾配によって
必要な長さが異なります。
法律やユニバーサルデザイン指針、
開業後の患者さんの年齢層などを総合して、
段差やスロープの計画を固めています。

【②建物の内外装と各室の性能】

外壁や内部の床・壁・天井の仕上材や
求める遮音・断熱性能について打合せをします。
採用する材料によって下地や構成材が変わり、
その内容により次段階で決める窓・ドア類、設備・機器の
選択肢や納まりが変わるからです。

特にこの段階の決定には、
開業後の動線の具体的なイメージが欠かせません。
例えば内装であれば
車椅子やストレッチャーの利用部分は
室内壁の腰下部分を傷みにくい素材としたり、
土足・内履きの履き替えや各室の清掃方法により
水濡れに耐える素材としたりといった計画を検討します。
また、各室の性能であれば
診察室の遮音や待合室の調湿、クリーンルーム仕様やレントゲン等、
医院の各室に求める機能を相談しながら素材選定を行います。

MX-2310F_20210316_100053.jpgパース(完成予想図)。
受付から待合室を見た様子をイメージいただけるようスケッチしたもの。

【③窓・ドア類】

②で決定した内外装や性能に見合う窓・ドア類の建具から、
希望のデザインや求められる機能に応じて
具体的な寸法や仕様を決めていきます。

例えば待合室に遮音性能を持たせる場合、
ドアや引戸も防音仕様とする必要があります。
また、窓については外部音のシャットアウトに対する要望や
換気の経路、法律の諸条件によっても選択肢が変わります。

その他、それぞれの建具について
自動・手動の別や静かに戸が閉まる半自動仕様、手すりの有無、
内部を見渡せるガラス入りにするか否か等を協議します。

ドアや窓といった建具類は
実際の使い勝手に直結する重要な部分。
あらゆる面から複合的に判断し、
運用がスムーズになる仕様を計画します。

なごみOPS_3064.jpg

【④各種設備】

照明・インターネット・電話等の電気関係、
水まわり・エアコン・換気等の機械関係、
そして電子カルテやレントゲンなどの医療機器関係を決定します。

例えば各室の用途により照明計画や空気清浄度・換気経路の計画、
各所の流しやトイレ・洗面等の商品選定が
打合せの議題に挙がります。

中でも医療機器については医院・病院の心臓部であり、
機能、デザイン共に建築とマッチした使いやすさが重要となります。
ときに医療機器業者の方と合同での設計打合せを行い、
機器特有の条件に応じた建築材料や配線等と
建築デザインとのすり合わせをしています。

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【⑤家具類】

家具には建築に造りつける「造作家具」と
既製品を設置する「購入家具」に分かれますが、
「造作家具」の場合には「実施設計」にて詳細を図面化します。

例えば受付カウンターを造作する場合においては、
患者さん側に荷物置きの台を設けるか、
車いす用の受付も設けるか、
スタッフ側にPCデスクや収納を忍ばせるか、等を打合せの上で
デザイン・製図を行います。

また、「購入家具」についてもあらかじめ設置位置を想定し、
室内計画に落とし込んでいます。
待合室のソファであれば、
入口、受付、診察室それぞれとの位置関係によって
ソファへの視線の届き方を検討し、
サイズや設置位置、角度のご提案をしています。
WARAKUSHAではインテリアコーディネーター所員による
建築デザインと合った家具のご提案も可能です。

【⑥サイン(案内表示)、外構、植栽他】

室名等案内表示や看板といった屋内外におけるサインのデザイン、
駐車場の仕上や縁石等の外構、
庭や緑地帯、花壇等の植栽計画を具体化します。

特にサインについてはデザイン性だけでなく、
どんな方にも、遠くからでも見やすい視認性の良さも重視します。
例えば浜松市のユニバーサルデザイン指針では
「遠くから見る文字は角ゴシック系で太めの書体を使用する」
「文字と下地の色彩は5度以上の明度差を確保する」
等の基準が定められています。
WARAKUSHAでも、この指針を標準として建築デザインとの
バランスを考慮し、サインをご提案しています。

外構計画や植栽計画についても、初めての患者さんにとっては
クリニックの「顔」となる大切な部分です。
入口の見つけやすさや駐車・送迎のしやすさ、
そして入りやすい雰囲気を大切に、詳細の図面を完成させます。

3.打合せ頻度と項目の例

院長先生と設計者の打合せ頻度と内容の一例として、
約200㎡規模、
医師は院長先生お一人というクリニックの
「実施設計」打合せ概要をご紹介します。

このクリニック様の実施設計の期間は約4か月、
打合せ回数は計10回+メールでのやり取りでした。

土地・建物の諸条件により
同規模であっても期間・頻度は異なりますが、
ひとつの目安としてご参照いただけたらと思います。

【打合せ10回の内訳(1回:約2時間)】

■第1月:1回
 ①建物のフォルムに関わること

■第2月:2回
 ①建物のフォルムに関わること
 ②建物の内外装と基本性能

■第3月:4回
 ②建物の内外装と基本性能
 ③窓・ドア類
 ④各種設備・機器
 ⑤造作家具類

■第4月:3回
 ③窓・ドア類
 ⑤造作家具類
 ⑥サイン(案内表示)、外構、植栽他

4. まとめ

クリニック等医院開業にあたり、
建物新築打合せの初期段階
「基本設計」についてご紹介しました。

次回コラムでは次の段階「実施設計」において、
どのような観点で計画を進めて行くかについて
お話ししたいと思います。

工事を含めた全体の流れについては、
「設計の流れ・よくある質問」
(↑クリックするとページへ移動します)
のページをご覧ください。

また、無料進呈の「医療・福祉施設設計事例集」では
実際の施設について詳しくお伝えしております。
ぜひ、資料請求からお申込みください。

資料IMG_3485-1.jpg

今回ご紹介の事例       

なごみクリニック様

林齒科医院様 ほか

この記事は私が書きました

WARAKUSHA代表 一級建築士・管理建築士

山﨑 正浩

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